日銀新総裁が描くこれからの金融政策を考えてみた

渋谷オフィス
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新総裁決定までの経緯

植田氏の日銀総裁に決まりましたが、決定までの経緯は紆余曲折あったようです。

当初政府は現在の副総裁である雨宮現副総裁に総裁を打診しましたが断られています。

この時点で政府は黒田総帥の継承を望んでいたと考えられます。

マイナス金利政策、国債の大量購入を続けることを今の日本経済には必要な政策だと判断していたのでしょう。

あるいは、ここまで副作用が大きくなった責任を副総裁として解決すべきと判断したのかもしれません。

結果的に黒田総帥の後始末とも言える出口戦略を渦中にいた雨宮現副総裁が断ったのは、あまりにも難しすぎる難問を自らでは収束させることができないと判断したのでしょう。

それ程、マイナス金利政策を止め、財政収支を健全化するプロセスは難しく、先が見えない先導役を請負うことになります。

では、政府が望んだ人事が出来ないと考えた総理は、安倍政権時代に日銀が決めた金利政策を日銀内で解決すべきと考えていたかもしれません。

今回の植田氏の人選は日銀の提案であり、総理もそれを受入れたと見られています。

これまで日銀総裁は日銀出身者が多く、植田氏のような学者の総裁人事は初めてです。

新総裁になる植田氏はマイナス金利政策を導入した90年代末に日銀の審議員を務めていました。

この際は、長期金利の低下を促すことで政策効果を出す「時間軸効果」政策を主導し、その理論的支柱を解いた人物です。

その後、日本銀行の金融研究所の顧問、コンファレンスの参加するなど日銀との関係は深いと言えます。

また、植田氏の指導を受けた者も日銀内に多くいるため、日銀の身内と同じと判断している方もいるようです。

最終的に植田氏が内定しましたが、重要なことは今回の人事が政府の意見ではなく、日銀からの要望で決まったことです。

黒田総裁は安倍元総理の元、異次元の金融緩和制裁を主導してきました。これは政府の意向を踏まえた政策であり、政府の子会社と言い放った安倍元総理の言葉よりも読みとれます。

日銀としては、黒田総裁の金融政策が本来あるべき姿と考えていなかったのでしょう。

この点で岸田総裁が目指すアベノミクスからの脱却、新資本主義への移行の点で、双方の思惑が一致したのでしょう。

日銀の伝統的な金融政策

伝統的な金融政策とは、政策金利である(無担保コールオーバーナイト物金利)を誘導する公開市場操作を通じて、金融市場調節を行う金融政策であるとされます。

これに対して現在の金融政策は、非伝統的金融政策(Unconventional Monetary Policy)と言われ、伝統的な金融市場調節手段である政策金利をゼロ、或いはほぼゼロになった状況にした上でさらに金融緩和を行う政策を意味します。

これは伝統的な金融政策で誘導すべき市場調整能力を自ら手放し、量的緩和やマイナス金利政策、イールドカーブ・コントロールによって市場に委ねることです。

結果、国債を大量に買い入れる以外の方法では金利操作が出来ず、成す術が見当たらなくなり、国債発行額の50%を超える状況になっています。

植田氏は伝統的な金融政策に近い考え方を持つと言われています。

政策金利である短期市場金利により金融政策を決める手法です。(元々中央銀行が果たすべき役目)

そのためには、量的緩和による金融政策を転換する必要がありますが、急激な政策転換は、市場や金融機関、消費者に大きな打撃を与えることになります。

そのことを十分承知している植田氏が、新総裁報道でインタビューを受けた時の会見内容が注目です。

「金融政策は景気と物価の現状と見通しにもとづいて運営しなければいけない。そうした観点から現在の日本銀行の政策は適切であると思います。現状では金融緩和の継続が必要であると考えています」

あくまでも現在に限定した上で、適せつ、継続が必要と発言しています。

言い換えれば、景気と物価次第では、変えると言うことでしょう。

金利引上げは必至、問題はいつ

植田氏は今年4月に就任しますが、景気と物価に対してどのような姿勢を示すのでしょうか。

4月は現在政府と経済界が一体となって推し進めている継続的賃上げの波及効果がはっきりする時期です。

賃上げが社会全体で物価上昇率を超える規模で行われれば景気は上向く可能性があります。

しかし、一部の限定した賃上げで終われば景気を上向かせる効果は限定的でしょう。

では、次に求められることは、資材高騰の原因になっている円安を改善する必要があります。

そのためには、金利の引上げが必要になりますが、この政策は景気を後退させる危険もあります。

また金利を抑えるためにいつまでも国債を買い続けることは国の財政を不健全化させます。

誰かがいつかは止めなかればいけません。

恐らく、就任後、早い時期に金利の引上げを行うことになるでしょう。

金利引上げにより為替相場を円高に導き、資材物価を押し下げる効果で景気の下支えをする。

併せて、コロナ過から日常へ戻すことによる経済の活性化を進める。

ただし、この方法は金利引上げによる景気の後退と物価が下げることで生まれる消費の向上のバランスを測りながら行う非常に難しい舵取りになると思われます。

植田新総裁の手腕が問われます。

気になる金利引上げの時期は、賃上げの波及効果によって決まるのではないでしょうか。

賃上げが順調に進めば、金利引上げの時期は早まり、不調に終われば引上げ時期は遅れるでしょう。

マイナス金利政策

植田新総裁は中央銀行(日銀)の役目が重要と著書の中に書いています。

特に各国の中央銀行の国際協調には持論をお持ちで、その点が評価され海外で高い評価を受けています。

先ほど記述した伝統的的な金融政策は、短期市場金利の誘導することによる市場のコントロールを行いますが、現在のマイナス金利政策では日銀はその持ち駒を使うことができません。

変にマイナス金利を転換することは金融機関への影響が大きく、国債金利の引上げ程度の影響では済まない可能性が高く、現状では手を出せないと言った状況です。

マイナス金利政策は長期金利の引上げにより影響を見極めた上で、円高、物価の安定が目に見えて確認できるまでは継続されると見ています。

国債の処分

国が発行する次々と無制限に買い続けた日銀ですが、国債には償還期間があります。

満期です。

満期時には国債を額面で買い取る必要があります。

日銀が保有する国債は満期により国から額面金額が支払われます。

この資金は税金で支払われます。

このような事態を避けるため日銀は満期国債の償還を求めていません。

日銀としては何としても国債を市場に戻したいと考えていますが、それでは市場からお金を減らす結果になり、景気を引き下げてしまいます。

一方で日銀が国債を保有してい限り、税金による償還や利息払は発生しませんが、市場に売り出した段階で国は税金から支払う必要があります。

国の財政の健全化は将来に先延ばし、現在は量的緩和政策の転換、マイナス金利政策の見直しに全力であたるのではないでしょうか。

結果としてしばらくは日銀は保有国債をそのままにするのではないでしょうか。

国債の買入

金利の引上げは実施されるでしょうが、引上げの速度は慎重に行うことになるでしょう。

そのために一定の国債の買い入れは継続されますが、今のような無制限な購入は行わないと見ています。

金利を抑え込むよりは、金利の上昇のスピードをコントロールする役目として買入を行う。

市場に対して日銀が金利引上げを継続的に行う意志をすることが重要だと考えるでしょう。

欧米との金利差が少なくなれば、円高が進み、物価高騰の要因であるひとつの要因を抑え込むことができます。

国債の買入は保有量が増えるだけで実害は将来に発生しますが、今時点では国の財政の健全化が悪くなりますが、国際的な格付けを下げる程の状況にはないと判断しているのでしょう。

植田新総裁への期待

「現在の悪循環を断ち切ってくれ」「何とかしてください」

多くの人が植田新総裁に期待しています。

10年以上続いた政策を変える難しく大変な仕事です。

ご自身もその点は十分承知しているようでインタビューでもそのことを述べています。

その上で総裁を受ける覚悟をした以上、解決する糸口もお持ちなのだろうと推測します。

学者だから出来る理論優先の金融政策が今の現状を打破できるのか?

庶民の私たちは見守るしか方法はありません。

最後に植田新総裁は人の話を良く聞く方と言われています。

岸田総理も聞く力があると自らを評しています。

聞く力を持ちあう政治と金融の指導者が誰から話を聞き、誰の言葉に耳を傾けるのか。

これが本当に私たちが見ていくべきことなのではないかと思います。

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